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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)140号 判決 1995年6月28日

岡山県岡山市磨屋町9番18号

原告

伊豫商事株式会社

代表者代表取締役

大島敏之

訴訟代理人弁理士

旦範之

旦武尚

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

入交孝雄

井上元廣

土屋良弘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第19857事件につき平成6年3月1日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年4月2日、名称を「ティッシュペーパー包装容器」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録の出願をした(昭和59年実用新案登録出願第48358号)が、平成元年10月31日に拒絶査定を受けたので、同年11月29日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成1年審判第19857号事件として審理したうえ、平成6年3月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月18日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体12の長辺に沿った四面に密接させてこのティッシュペーパー重積体12を熱可塑性柔軟シートで包んでこの二つの端縁をヒートシールして作った筒状体6と、この筒状体6の中央からティッシュペーパーを引き出すため前記筒状体6の内部に収容したティッシュペーパーの積み上げ方向の一面をなす部分に形成したティッシュペーパーの幅よりも短い長さのミシン目状切断線13と、前記筒状体6の長さ方向の両端をティッシュペーパー重積体12の端面に添わせて折り込み外側に位置する折り込み部分の端部を封止するためのヒートシール部10a、10bとをそれぞれ具備し、前記シートをティッシュペーパー重積体12の6面に添わせて形成してなるティッシュペーパー包装容器。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、実願昭52-169401号(実開昭54-97377号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」といい、その考案を「引用例考案1」という。)及び特公昭46-16073号公報(以下「引用例2」といい、その考案(発明)を「引用例考案2」という。)に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項に該当し、実用新案登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

本願考案の要旨、各引用例の記載事項、本願考案と引用例考案1との一致点の各認定は認める。相違点の認定は、審決認定のもの以外にも相違点が存在するとの留保の下に認める。各相違点についての判断は争う。

審決は、本願考案と引用例考案1との相違点を看過し(取消事由1)、各相違点についての判断を誤り(取消事由2、3)、その結果誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(本願考案と引用例考案1との相違点の看過)

(1)  本願考案も引用例考案1も、その構成を抽象的な形でとらえれば、熱可塑性柔軟シートからなる筒状体にティッシュペーパーの重積体を収容したものである点で同じであることは審決認定のとおりであるが、より具体的な形でこれをみれば、両考案の間には、本願考案の推考の難易を判断するうえで看過できない重要な相違がある。

引用例考案1が、携帯用袋入ティッシュペーパーであり、熱可塑性柔軟シートからなる筒状体にティッシュペーパーを挿入するものであることは、引用例1に明記されているところである。

このように熱可塑性柔軟シートからなる筒状体にティッシュペーパーを挿入するものにおいては、挿入されるティッシュペーパーは、筒状体を構成する挿入口より薄くなければならないため、一度に少数枚しか挿入できず、また、挿入に際しては、静電気を起こしやすいティッシュペーパーの特性のため、筒状体を構成する挿入口ティッシュペーパーと接触する部分に生ずる静電気を考慮して確実にかつきれいに挿入しようとすると、ある程度隙間を有した状態でしかティッシュペーパーを筒状体の中にいれることができないから、挿入されるティッシュペーパーは必然的に少数枚となる。また、引用例考案1が携帯用であることからすれば、挿入されるティッシュペーパーが少数枚であることは、もともと予定されているところといってよい。

これに対し、本願考案が「比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体の長辺に沿った四面に密接させてこのティッシュペーパー重積体を熱可塑性柔軟シートで包ん」だものであることは、本願考案の要旨とされているとおりであり、本願考案は、このように、ティッシュペーパーを、それが極めて薄くかつ軟らかいため崩れやすいうえ、静電気の生じやすいものであるにもかかわらず、枚数が多く厚みを有する重積体としてきっちり包みこんで弾圧状態で包装することができるものである。

両考案には、その構成を具体的な形でとらえれば、上記のように、大きな相違があるのであり、引用例考案1のように、「熱可塑性柔軟シートからなる筒状体に少数枚のティッシュペーパーの重積体を挿入したもの」が公知であるからといって、これから、直ちに、本願考案のように、「比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体の長辺に沿った四面に密接させてこのティッシュペーパー重積体を熱可塑性柔軟シートで包ん」だ構成に向かう発想がきわめて容易に生ずるということはありえない。

(2)  「厚手の紙葉で形成された」ものである点で本願考案と相違するとはいえ、「比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体の包装容器」である点においては本願考案と異なるところのないものが、本願出願前一般に市販されていたことは認める。

しかし、「厚手の紙葉で形成された比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体の包装容器」から、その厚手の紙葉を熱可塑性柔軟シートに変えたものに想到することは、決して容易なことではないから、上記事実が、本願考案の推考の難易に影響を与えることはない。

(4)  審決は、上記重要な相違点を看過し、これを考慮に入れないままにその結論に至るという誤りを犯したものであり、この誤りがその結論に影響することは明らかである。

2  取消事由2(相違点(1)の判断の誤り)

審決は、相違点(1)につき、「本願考案において、テイッシュペーパー重積体に対し、前記引用例2記載の包装容器の形態を採用することに格別の技術的困難性があるとすることはできない」(審決書6頁17行~7頁1行)と判断したが、この判断は、引用例考案1及び同2につき、本願考案の推考の難易を検討するうえで看過することの許されない重要な意味を有する本願考案との相違点を看過し、これらにつき検討しないままになされた判断であり、誤りである。

(1)  本願考案と引用例考案1との相違点の看過

審決が、本願考案と引用例考案1との間に存在する、本願考案の推考の難易に重要な影響を与える相違点を看過し、これを全く考慮に入れていないことは、上述のとおりである。

(2)  本願考案と引用例考案2との相違点の看過

引用例2に、審決認定のとおり、「合成樹脂シートで中箱を芯体として長手方向に沿ってその四辺を包んでその2つの端縁を接着して筒状体とし、該筒状体の長さ方向の両端を中箱の端面に添わせて折り込み、その外側に位置して折り込み部分端部を封止する接着しろを設けた包装容器が記載されている」(審決書3頁14行~4頁1行)ことは、「その外側に位置して折り込み部分端部を封止する接着しろを設けた」が、「折り込みの両端面を接着し、その外部に突出した接着しろに指かけ孔を設けた」態様のものも含むとの被告釈明を前提に認める。

しかし、引用例考案2の包装容器の構成をより具体的な形でみれば、その「合成樹脂シート」は「厚材料合成樹脂シート」であり、「その外側に位置して折り込み部分端部を封止する接着しろ」は、「折り込みの両端面を接着し、その外部に突出した接着しろに指かけ孔を設けた」ものであって、これらの点で、「比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体の長辺に沿った四面に密接させてこのティッシュペーパー重積体を熱可塑性柔軟シートで包んでこの二つの端縁をヒートシールして作った」ものである本願考案とは異なる。

そして、これらの相違は、本願考案の推考の難易を判断するうえで看過できない重要な意味を有する。

<1> 厚材料合成樹脂と柔軟シートとの相違

厚材料合成シートを芯体である中箱の包装に用いる際には、包装するのが厚材料シートであることから、この厚材料シートを曲げて芯体の形状に沿わせるためには、一定以上の力で、シリンダ・ローラ・当て板・加熱板・たたき板・横棒などにより、一定の面のみならず特定の一部を押し付けたり加熱したりする工程を必要とする。

包装されるのがティッシュペーパー重積体である場合、このような強い力で押し付ければ、積み上げられたティッシュペーパーは当然崩れてしまうから、上記のような構成は採りえない。

したがって、ティッシュペーパー重積体の包装容器を考案するに当たり、包装材料の材質は重要な意味を有する。

<2> 接着しろの突出と指かき孔の存在

本願考案は、「前記筒状体6の長さ方向の両端をティッシュペーパー重積体12の端面に添わせて折り込み外側に位置する折り込み部分の端部を封止するためのヒートシール部10a、10bとをそれぞれ具備し」たもの、すなわち、包装容器の短手方向の両側面に突出した部分について端部を封止したものである。

これが、突出した部分を折り込んで抑え込むためにヒートシールしたものを意味することは、本願図面第4図b及び第5図に明示されているところである。

なお、上記「前記筒状体6の長さ方向の両端をティッシュペーパー重積体12の端面に添わせて折り込み外側に位置する折り込み部分の端部を封止」における「外側に位置する折り込み部分の端部」は、折り込み部分のうち、平面状態の段階で辺部を形成する部分の一部、換言すれば、ティッシュペーパー重積体と反対側の端部の意味である。

本願考案は、このように突出した部分を折り込んで抑え込むためにヒートシ-ルしたものであるため、多くの容器をまとめておいた場合でも隣に位置する他の包装容器に傷をつけることがない。

他方、引用例考案2の包装容器が、「折り込みの両端面を接着し、その外部に突出した接着しろに指かけ孔を設けた」ものであることは、被告も認めるとこであり、このような構成を熱可塑性柔軟シートによる包装材料に適用すれば、多くの容器をまとめておいた場合には隣に位置する他の包装容器に傷をつけることがある。

したがって、本願考案と引用例2記載のものとの構成の上記相違は、ティッシュペーパー重積体の包装容器を考案するに当たり、重要な意味を有する。

(3)  審決は、上記のとおり、本願考案と各引用例考案との具体的構成における上記各相違点を看過したため、本願考案の推考の難易の判断において、これの有する意味を全く検討しないままその結論に至るという誤りを犯したものであり、この誤りが審決の結論に影響することは明らかである。

3  取消事由3(相違点(2)の判断の誤り)

審決は、相違点(2)につき、「テイッシュペーパーなどの容器において、その取りだし口の形状をテイッシュペーパーの幅よりも短い長さとすることは、本願出願前周知であり(例えば、実公昭57-22873号公報、実公昭57-61018号公報、及び、実開昭58-1397号公報参照)、それによって、引き出されたテイッシュペーパーが絞られて自立した状態となり、テイッシュペーパー取り出しに便利である等、これらと作用をも同じくするものであるから、本願発明においてかかる観点からこれらの構成を採用することに技術的困難性があるとすることはできない。」(審決書7頁2~14行)と認定判断したが、誤りである。

審決の認定した上記周知技術は、審決の例示した上記各公報記載の考案自体もそうであるように、硬質材料よりなる外箱を有する場合の取り出し口の形状に関するものであり、本願考案における熱可塑性柔軟シートのような軟質材料を使用した場合に関するものではない。

このような材質の相違を考慮に入れないまま、硬質材料の場合に関する周知技術の構成を軟質材料の場合である本願考案に採用することに技術的困難性はないとすることには、議論に飛躍があり、これが結論に影響することは、明らかである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願考案と引用例考案1との間に原告主張の相違点が存在することは認めるが、「厚手の紙葉で形成された」ものである点で本願考案と相違するとはいえ、「比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体の包装容器」である点においては本願考案と異なるところのないものが、本願出願前市販されていたことは原告も認めるところであり、また、本願考案は、包装容器にティッシュペーパーをどのようにして収容するか自体を何ら規定するものではないから、上記相違点は、本願考案の推考の難易を判断するうえで格別意味を有するものではない。

2  取消事由2について

(1)  本願考案と引用例考案1との相違点の看過について

原告主張の本願考案と引用例考案1との相違点が本願考案の推考の難易を判断するうえで格別意味を有するものではないことは、上に述べたとおりである。

(2)  本願考案と引用例考案2との相違点の看過について

<1> 本願考案が「柔軟シート」を用いているのに対し、引用例考案2が「厚材料合成樹脂シート」を用いていることは認めるが、これは、本願考案の推考の難易の判断において格別の意味を有するものではない。

審決は、引用例考案2においては、シートが直方体である被包装体(中箱)の六面に沿わせて形成してなるものであり、このため、被包装体の長手方向に沿ってその四辺に包んでその2つめ端縁を接着して筒状体とし、その長さ方向の両端を被包装体の端面に添わせて折り込み、外側に位置して折り込み部分端面を封止する接着しろを設けた構造であることをその限度で認定しただけであり、包装容器の素材が厚材料シートであることに伴うそれに固有の構造を何ら認定したものではない。

審決認定の上記構造は、その限度においては、直方体である被包装体の六面に沿わせてこれを包装する素材シートであれば、素材が厚材料シートであっても、熱可塑性柔軟シートであっても、全く同じように採用しうるものであることは明らかである。

本願考案は、容器の素材が熱可塑性柔軟シートであるといっても、素材の性質にふさわしい固有の構造や固有の形成の手段・方法を規定するものではない。

<2> 引用例考案2の包装容器が「折り込みの両端面を接着し、その外部に突出した接着しろに指かけ孔を設けた」態様のものであることは、認める。

引用例2についての審決認定中の、「その外側に位置して折り込み部分端部を封止する接着しろ」は、折り込み部分を封止するものであれば、接着後外部に突出する接着しろのあるものもないものも、また、その接着しろに指かけ孔を設けたものも設けないものも含み、したがって、引用例考案2の上記態様のものも含む意味である。

包装容器の折り込み部分端部を封止する接着しろは、容器として折り込み部分端部を接着する構造を有する限り、接着後外部に突出する接着しろやその突出した接着しろに設けられた指かけ孔の有無に係わりなく、折り込み部分端部を封止した包装容器を構成する。

本願考案は、その要旨に示されるとおり、「前記筒状体6の長さ方向の両端をティッシュペーパー重積体12の端面に添わせて折り込み外側に位置する折り込み部分の端部を封止するためのヒートシール部10a、10bとをそれぞれ具備し」というものであって、ヒートシールを施した後の構造については何も規定していない。

したがって、本願考案と引用例考案2との間には、折り込み部分端部の接着しろの構成に関し、原告主張の相違点は存在せず、その存在を前提とする原告主張は失当である。

3  取消事由3(相違点(2)の判断の誤り)について

ティッシュペーパー繰出口装置につき、審決が周知例として挙げた実公昭57-61018号公報には、容器にティッシュペーパーの幅よりも短い長さの切り込み口を設けたものが、この切込み口よりティッシュペーパーを繰り出すようにするとともに、次のティッシュペーパーの突出端部を保持できるようにするという効果を有する従来技術として記載されている(甲第6号証1欄24~36行、図面第1図)。

同じく審決の挙げた実公昭57-22873号公報、実開昭58-1397号公報にも同種の構造のものが示されている。

これらに示されているティッシュペーパーの取出口が、いずれも樹脂フィルム様の軟質材料からなるものであることは、日常経験からしても明らかである。

そうとすれば、軟質材料を使用した本願考案においても、ミシン目状切断線を設けるに当たり、これをティッシュペーパーの幅より短くするとの構成を採用することに何らの困難性もないことは、明らかである。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(本願考案と引用例考案1との相違点の看過)について

本願考案と引用例考案1とは、審決認定のとおり、「テイッシュペーパー重積体を熱可塑性柔軟シート筒状体で包んでなり、この筒状体の中央からテイッシュペーパーを引き出すため前記筒状体の内部に収容したテイッシュペーパーの積み上げ方向の一面をなす部分に形成したミシン目状切断線を具備し、前記筒状体の長さ方向の両端を封止したテイッシュペーパー包装容器」(審決書4頁10~16行)の構成において一致することは、当事者間に争いがない。

また、両者の間には、審決認定の相違点のほかに、原告主張のとおり、本願考案が、比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体の長辺に沿った四面に密接させてこのティッシュペーパー重積体を熱可塑性柔軟シートで包んだものであるのに対し、引用例考案1は、熱可塑性柔軟シートからなる筒状体に少数枚のティッシュペーパーの重積体を挿入したものであるという相違があることについては、当事者間に争いがない。

原告は、この相違点を強調し、ティッシュペーパーの重積体を筒状体に収納する方法また収納するティッシュペーパーの量、形状が相違するなど、本願考案の推考の難易を判断するに当たり考慮に入れるべき相違点があるのに、審決はこれを看過していると主張する。

しかし、本願考案は、その要旨の示すとおり、物品の形状、構造に係る考案であって、原告主張の収納方法が要旨となるものでないことは明らかであり、審決の上記の一致点の認定は、このことを前提にして、本願考案と引用例考案1との形状、構造を対比したものであることは、審決が、「引用例1記載のものにおいても、テイッシュペーパーを対象とし、これを重積体として包装することに変わりはなく、対象物が重積体をなすことからその形態は立方体状をなし、これを包装するシートの形態もまたその各面に添ったものとなることは当然であるから」(審決書4頁3~8行)と述べていることから明白である。したがって、収納の方法の相違をいう原告の主張は失当である。

また、収納するティッシュペーパーの量、その形状については、その包装材料として「厚手の紙葉」を用いる点で本願考案と相違するが、「比較的に高く積み上げたティッシュペーパー重積体」である点においては本願考案と異なるところのないものが、本願出願前一般に市販されていて、周知のものとなっていたことは原告の認めるところである。

この周知のティッシュペーパー重積体の包装容器を前提にすれば、収納するティッシュペーパーの量、形状において差異があるとはいえ、同じティッシュペーパー重積体の包装容器において、「熱可塑性柔軟シート」を包装材料として用いることが開示されている引用例1に接した当業者にとって、「熱可塑性柔軟シート」を包装材料として用いることに想到することは、きわめて容易になしえたことといわなければならない。

したがって、この点は、本願考案の推考の難易性の判断に影響があるとは認められない。

原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点(1)の判断の誤り)について

(1)  本願考案と引用例考案1との相違点の看過について

原告主張の本願考案と引用例考案1との相違点が本願考案の推考の難易を判断するうえで格別意味を有するものではないことは、上述のとおりである。

(2)  本願考案と引用例考案2との相違点の看過について

<1> 柔軟シートと厚材料合成樹脂との相違

引用例2に、「合成樹脂シートで中箱を芯体として長手方向に沿ってその四辺を包んでその2つの端縁を接着して筒状体とし、該筒状体の長さ方向の両端を中箱の端面に添わせて折り込み、その外側に位置して折り込み部分端部を封止する接着しろを設けた包装容器が記載されている」(審決書3頁14行~4頁1行)ことについては、当事者間に争いがない。

厚手の紙葉で形成された前示周知のティッシュペーパー包装容器の厚手の紙葉を熱可塑性柔軟シートに変えることが当業者にとってきわめて容易に想到できることは前述のとおりであるから、これに、引用例考案2の上記技術を適用し、「合成樹脂シートでティッシュペーパーを芯体として長手方向に沿ってその四辺を包んでその2つの端縁を接着して筒状体とし、該筒状体の長さ方向の両端を中箱の端面に添わせて折り込み、その外側に位置して折り込み部分端部を封止する接着しろを設けた包装容器」を推考し、本願考案の構成に想到することは、何の困難もなくなしえたことといわなければならない。

引用例2に記載された上記包装容器製造方法自体は、その限度においては、日常生活においても見られるといってよい、ごくありふれたものであって、格別特色のあるものではなく、また、包装容器の素材が厚材料合成樹脂であることと特に結び付く要素を有しているわけでもないから、具体的には、本願考案におけると異なり、厚材料合成樹脂を素材とするものについて開示された技術であったとしても、そのことが上記困難につながるとは考えられない。

したがって、上記素材の相違をいう原告主張は採用できない。

<2> 接着しろの突出と指かき孔の存否

本願考案は、その要旨に示すとおり、「前記筒状体6の長さ方向の両端をティッシュペーパー重積体12の端面に添わせて折り込み外側に位置する折り込み部分の端部を封止するためのヒートシール部10a、10bとをそれぞれ具備し」というものであって、ヒートシール部を必須の構成要件とはしているが、ヒートシール部の具体的態様やヒートシールを施した後の構造については何も規定していないから、接着後接着しろを外部に突出させ、その突出した接着しろに指かけ孔を設けたものも排除しておらず、接着後接着しろを外部に突出させるか否か、その突出した接着しろに指かけ孔を設けるか否かは、必要に応じて適宜決定すべき設計事項とされているとみるほかはない。

原告は、本願考案の上記構成は、突出した部分を折り込んで抑え込むためにヒートシールしたものを意味することは、本願図面第4図b及び第5図に明示されているところである旨主張するが、上記各図が、本願考案の一実施例を示す以上の意味を有するものではないことは、本願明細書に「図はいずれもこの考案の一実施例を示すもので、・・・第4図a、bは容器の両端の封止状態を示す説明図、第5図は使用状態の斜視図である。」(甲第2号証の4、6欄15~21行)として明示されているところであるから、これをもって本願考案自体の構成とすることができないことはいうまでもない。

したがって、本願考案と引用例考案2との間には、折り込み部分端部の接着しろの構成に関し、原告主張の相違点は存在せず、その存在を前提とする原告主張は採用できない。

(3)  その他、相違点(1)についての審決の判断を誤りとする資料は、本件全証拠を検討しても見いだすことができない。

以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由2も理由がない。

3  取消事由3(相違点(2)の判断の誤り)について

ティッシュペーパーなどの容器において、その取り出し口の形状をティッシュペーパーの幅よりも短い長さとすることが周知であったことは、当事者間に争いがない。

そして、周知事項の例として審決が挙げた実公昭57-61018号公報には、ティッシュペーパー繰出口装置につき、「この考案は一枚のテイツシユペーパーを繰出すと、次の一枚のテイツシユペーパーの端部が繰出口より突出保持できるようにしたテイツシユペーパー繰出容器の繰出口装置に関する。従来この種の繰出口装置は第1図示の如く容器本体1の上面板1’の中央部に細長状に開口した繰出口2を設け、該繰出口2の全面を、容器本体1の上面板1’の裏面に貼着した樹脂フイルム3により覆うとともに、該樹脂フイルム3の中央部に切込み口4を設け、この切込み口4よりテイツシユペーパーを繰出すようにするとともに、次のテイツシユペーパーの突出端部を保持できるようにしていた。」(甲第6号証1欄24~36行)と記載され、上記記載どおりのものが図示されている(同第1図)から、そこには、容器にティッシュペーパーの幅よりも短い長さの切り込み口を設けたものが、この切込み口よりテイツシユペーパーを繰り出すようにするとともに、次のテイツシユペーパーの突出端部を保持できるようにするという効果を有する従来技術として、記載されているということができる。そして、この種ティッシュペーパーの取出口が、樹脂フィルム様の軟質材料からなるものであったことは、当裁判所に顕著である。

そうとすれば、包装容器全体に軟質材料を使用した本願考案においても、取出口としてミシン目状切断線を設けるに当たり、これをティッシュペーパーの幅より短くするとの構成を採用することに何らの困難性もないことは、明らかである。

上記周知技術の採用の難易が、容器全体が熱可塑性柔軟シートよりなるものにおける取出口の場合と、硬質材料よりなる外箱における取出口の場合とで格別相違するものではないことは、上記周知技術の構成及び効果の内容自体に照らし、明らかであるから、容器全体が熱可塑性柔軟シートよりなる取出口である本願考案の場合と、硬質材料よりなる外箱における取出口に係る従来技術との相違をいう原告主張は採用できない。

原告主張の取消事由3も理由がない。

3  以上のとおり原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成1年審判第19857号

審決

兵庫県赤穗郡上郡町与井新89番地

請求人 伊よ商事 株式会社

東京都台東区上野3-23-6

代理人弁理士 旦範之

昭和59年実用新案登録願第48358号「テイッシュペーパー包装容器」拒絶査定に対する審判事件(平成3年10月25日出願公告、実公平3-50053)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1. 出願の経緯及び本願考案

本願は、昭和59年4月2日の出願であって、その考案は、出願出公告後、平成5年12月6日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、以下のとおりと認める。「比較的に高く積み上げたテイッシュペーパー重積体12の長辺に沿った四面に密接させてこのテイッシュペーパー重積体12を熱可塑性柔軟シートで包んでその二つの端縁をヒートシールして作った筒状体6と、この筒状体6の中央からテイッシュペーパーを引き出すため前記筒状体6の内部に収容したテイッシュペーパーの積み上げ方向の一面をなす部分に形成したテイッシュペーパーの幅よりも短い長さのミシン目状切断線13と、前記筒状体6の長さ方向の両端をテイッシュペーパー重積体12の端面に添わせて折り込み外側に位置する折り込み部分の端部を封止するためのヒートシール部10a、10bとをそれぞれ具備し、前記シートをテイッシュペーパー重積体12の6面に添わせて形成してなるテイッシュペーパー包装容器。」

2. 引用例

これに対し、当審において引用された実願昭52-169401号(実開昭54-97377号)のマイクロフィルム(以下、引用例1という。)には、熱可塑性柔軟シートからなる筒状体にテイッシュペーパーの重積体を収容して、該テイッシュペーパーの積上げ方向の一面をなす部分にミシン目状切断線を形成し、該筒状体の長さ方向の両端をヒートシールしてなる携帯用袋入テイッシュペーパーが記載され、

同じく引用された特公昭46-16073号公報(以下、引用例2という。)には、合成樹脂シートで中箱を芯体として長手方向に沿ってその四辺を包んでその2つの端縁を接着して筒状体とし、該筒状体の長さ方向の両端を中箱の端面に添わせて折り込み、その外側に位置して折り込み部分端部を封止する接着しろを設けた包装容器が記載されている。

3. 本願考案と引用例との対比

引用例1記載のものにおいても、テイッシュペーパーを対象とし、これを重積体として包装することに変わりはなく、対象物が重積体をなすことからその形態は立方体状をなし、これを包装するシートの形態もまたその各面に添ったものとなることは当然であるから、引用例1と本願考案とを対比すると、両者は、

「テイッシュペーパー重積体を熱可塑性柔軟シート筒状体で包んでなり、この筒状体の中央からテイッシュペーパーを引き出すため前記筒状体の内部に収容したテイッシュペーパーの積み上げ方向の一面をなす部分に形成したミシン目状切断線を具備し、前記筒状体の長さ方向の両端を封止したテイッシュペーパー包装容器。」

という構成において一致し、

本願考案において

(1)比較的に高く積み上げたテイッシュペーパー重積体の長辺に沿った四面に密接させてこのテイッシュペーパー重積体を熱可塑性柔軟シートで包んでその二つの端縁をヒートシールして筒状体を作り、筒状体の長さ方向の両端をテイッシュペーパー重積体の端面に添わせて折り込み外側に位置する折り込み部分の端部を封止するためのヒートシール部10a、10bとをそれぞれ具備し、シートをテイッシュペーパー重積体の6面に添わせて形成してなること

(2)ミシン目状切断線をテイッシュペーパーの幅よりも短い長さとしたこと、

が引用例1に記載がない点において相違がある。

4. 当審の判断

前記相違点について検討する。

(1)引用例2記載の「接着」は、加熱手段によっていることから、「ヒートシール」と解され、従って、ここにいう「接着しろ」は本願考案におけるヒートシール部に相当するものである。

また、その「中箱」は枚葉シートを用いてこの中箱を包むとき形状をきめるための芯体となるものであるが、本願考案においてもその明細書の記載をみると、シートによりテイッシュペーパー重積体を包んで筒状体を形成する際及び筒状体の長さ方向の両端を折り込む際、その端面に押当てるようにして折り曲げるというのであって、そのシートが柔軟シートであるといっても、また、被包装物が比較的に高く積み上げたテイッシュペーパー重積体であるといっても、被包装物の形状に添ってこれら被包装物が容器の形状をきめる手段となることに変わりはない。

そして、このように形成された包装容器が被包装体の6面に添わせて形成されてなることは当然の結果であるから、本願考案において、テイッシュペーパー重積体に対し、前記引用例2記載の包装容器の形態を採用することに格別の技術的困難性があるとすることはできない。

(2)テイッシュペーパーなどの容器において、その取りだし口の形状をテイッシュペーパーの幅よりも短い長さとすることは、本願出願前周知であり(例えば、実公昭57-22873号公報、実公昭57-61018号公報、及び、実開昭58-1397号公報参照)、それによって、引き出されたテイッシュペーパーが絞られて自立した状態となり、テイッンユペーパー取り出しに便利である等、これらと作用をも同じくするものであるから、本願発明においてかかる観点からこれらの構成を採用することに技術的困難性があるとすることはできない。

5. むすび

以上のとおりであるから、本願の考案は、引用例1及び2に記載される考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年3月1日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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